火力発電の
カーボンニュートラル実現へ
関西電力舞鶴発電所取材:関西電力舞鶴発電所

資料提供:関西電力株式会社​

DXの進展に伴い電力需要の増加が見込まれるなか、第7次エネルギー基本計画が発表された。
再エネ・原子力という脱炭素電源の最大限の活用が明記され注目が集まるが、
供給の7割を担う火力発電の役割は依然として大きい。
脱炭素社会実現に向けた火力発電の取り組みとは──舞鶴発電所を訪ねた。

日本の電力を支える
火力発電

長きにわたり、日本の産業や生活を支える電力供給源として稼働する火力発電。電力の安定供給や、災害時などにおける電力レジリエンスを支えている。
また、近年の再生可能エネルギー導入拡大にあたっても、自然条件に左右される太陽光や風力発電の出力(発電量)の変動をおぎない、電力の需給バランスを調整する重要な役割を果たしている。
一方で、火力発電はCO₂を排出するという課題があり、2050年カーボンニュートラル実現に向けては、火力発電からのCO₂排出を実質ゼロにしていくという脱炭素化の取り組みが求められている。

資料提供:関西電力株式会社

求められる火力発電の
脱炭素化

今回、関西電力の舞鶴発電所で火力の脱炭素化に向けた実証試験が進んでいると聞き、現地を訪ねた。
京都府舞鶴市の西端、若狭湾国定公園内に位置するのが舞鶴発電所だ。関西電力唯一の石炭火力としてベース電源を担っている。
舞鶴発電所では、CO₂を回収し、有効利用・貯留する技術(CCUS技術)の確立に向けたNEDO事業が関西電力の協力の下で進められている。
川崎重工とRITEは固体吸収材を用いて石炭燃焼排ガスからのCO₂分離回収の技術開発事業を進めている。
また、日本CCS調査、エンジニアリング協会、日本ガスライン、伊藤忠商事は、液化したCO₂の船舶輸送する実証事業に取り組んでいる。2024年11月から液化CO₂輸送実証試験船「えくすくぅる」、および液化CO₂を積み下ろしする舞鶴と苫小牧の陸上基地を使って、CO₂の出荷・輸送から受け入れまで行う一貫輸送システム確立のための技術開発と実証試験を行っている。
舞鶴発電所は、CO₂排出の多い石炭火力であり、だからこそ、ここを舞台に脱炭素火力に貢献するCCUS技術の確立に協力し、カーボンニュートラルの実現に貢献したいと考えている。

提供:NEDO、山友汽船株式会社

CO₂を船舶で輸送する実証事業の概念図資料提供:日本CCS調査会社

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この図は、二酸化炭素(CO₂)の分離・回収、輸送、受入のプロセスを示しています。
出荷基地である発電所などの排出源からCO₂を分離・回収し、CO₂を液化する設備に送ります。液化されたCO₂は、陸上パイプライン(PL)を通じてタンクへ移されたあと、船に積み込まれます。
船に積み込まれた液化CO₂は、出荷基地から受入基地に輸送され、受入基地のタンクに貯蔵されます。

CCUS実現に向け
輸送技術を確立する

CO₂を液化し、船で運ぶ──わざわざ運ぶ必要性があるのだろうか。素朴な疑問が浮かぶ。CCUSは脱炭素社会を実現する技術として国内外で高い注目を集めるが、CO₂の排出地と貯留・活用地が離れていることが多く、CO₂を安全に低コストで大量に輸送する技術の確立が普及には不可欠である。
回収したCO₂の使い道としては、日本では化学原料の生産に活用する研究が進む。また、米国では、CO₂を古い油田に注入することで、油田に残った原油を圧力で押し出しつつ、CO₂を地中に貯留するというCCUSがおこなわれており、全体ではCO₂削減が実現できることに加え、石油の増産にもつながるとして、商用化が実現している。

資料提供:関西電力株式会社

発電業務でも進む
環境負荷低減の取り組み

火力発電の脱炭素化に向けさまざまな実証試験が進む舞鶴発電所だが、日々の発電業務においても低炭素化・環境負荷低減に取り組んでいる。
その1つが高温・高圧の蒸気でタービンを回す「超々臨界圧」方式。細かな粉末にした石炭を最も高いところでは約1500℃の高温で燃やし、約600℃の高温・高圧の蒸気でタービンを回す。これにより石炭火力としては高いレベルの発電効率を実現しているという。効率よく発電できれば、その分CO₂排出が少なくなるという。
また、石炭を燃やして出る灰は全量リサイクルする。石炭灰は形状によってクリンカアッシュとフライアッシュに分かれる。ボイラーの底で回収されるクリンカアッシュは軽くてゴツゴツした形状のもので、地盤改良材などに活用される。一方、電気集塵機で回収されるフライアッシュは細かい粒子状で、コンクリートの混和剤などに使われる。
また、石炭を燃やしたあとの排煙に含まれる硫黄分を除去する装置からは石膏が発生するが、こちらは石膏ボードなどに使われているという。
構内には、石炭灰のサイロが建ち並んでいたが、サイロが満杯になれば発電所運営に支障をきたす。灰の運び出しは土日関係なく行われているという。石炭灰の運び出しは安全・安定運転に不可欠だ。

資料提供:関西電力株式会社

供給力確保と
脱炭素火力の実現に邁進する

正直なところ、石炭火力というとCO₂を大量に発生させる発電という印象を持っていたが、現場ではさまざまな面において環境負荷を最小限に抑える努力をしており、大きく印象が異なる。
「石炭はLNGや石油などの燃料に比べ、埋蔵量が豊富で、安定供給を支えてきた。足元の電力需要も予断を許さないなか、必要な発電量を維持・確保するため、現場一丸となって日々の業務に取り組んでいく。加えて、CCUS技術の確立にも貢献し、脱炭素社会実現の一翼を担いたい」
舞鶴発電所から新たな技術が生まれることに期待が高まる。

豊かな自然に溶け込む舞鶴発電所資料提供:関西電力株式会社

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