新型原子炉の社会実装で
脱炭素社会実現に貢献取材:日立GEニュークリア・エナジー
BWRX-300 発電所完成イメージ図
2025年2月第7次エネルギー基本計画が閣議決定。原子力については、
最大限の活用が明記されるとともに、次世代革新炉については
廃炉を決定した原子力発電所を有する事業者の原子力発電所のサイト内での建て替えの方向性が示された。
原子力政策が大きく前進するなか、次世代革新開発を進める日立GEニュークリア・エナジーを訪ねた。
安全機能をさらに強化した
大型軽水炉HI-ABWR
「再エネか原子力か二項対立的な議論ではなく、脱炭素電源を最大限活用すべき、と第7次エネルギー基本計画に明記され、再稼働、新設の動きが加速していくと考えている。日立グループとしては、既設炉の再稼働と建設途上の中国電力島根3号、電源開発大間1号、東京電力東通1号の建設·運転に総力を挙げ取り組んでいく」と切り出したのは、日立GEニュークリア·エナジーで原子力の研究開発を統括する松浦正義さん。
原子力発電の燃料となるウランは価格変動が少なく、一度原子炉に燃料を入れると1年間は継続運転でき、燃料自体も4~5年は使用できるため長期間の安定運用が可能だ。このように安定供給に貢献し、エネルギーセキュリティ強化につながる原子力の必要性が高まるなか、世界各国で新型炉の開発が進んでいる。日立GEニュークリア·エナジーでは、電気出力1300~1500MW級の大型軽水炉HI-ABWRの開発を進めており、2030年代の導入をめざしている。大きな特長は、福島第一原子力発電所事故を教訓とした「事故の防止」と「重大事故発生時の影響緩和」だ。
なかでも重大事故への進展を防止するカギになるのが静的炉心冷却システムだ。これは炉心を収容する原子炉圧力容器よりも高い位置に冷却水源を設置することで、電力供給ができなくなっても自然循環で炉心を冷やすことができる装置。加えて、重大事故時の放射性物質を閉じ込める特殊フィルターを開発、採用し、排出する放射性物質を抑制する。
「東日本大震災での福島第一原子力発電所事故を教訓に制定された新規制基準を超えて、冷やす、閉じ込めるという安全機能をより強化した」と松浦さん。
HI-ABWR 建屋断面イメージ図
静的炉心冷却システム
放射性物質閉じ込めシステム
海外プロジェクト進む
小型炉
日立GEニュークリア·エナジーでは、大型軽水炉に加え電気出力300MW級の小型軽水炉BWRX-300の開発も進んでおり、カナダ、米国、ポーランドなどでグローバル展開することをめざしている。
原子力発電所は大容量の電力を供給できることがメリットであり、小型化すると経済性が悪化するのでは──疑問を小型軽水炉開発の責任者である木藤和明さんにぶつける。「BWRX-300の主要な建屋はサッカースタジアムのフィールドに収まる程度の大きさ。先進的な隔離弁一体型原子炉の概念を導入することでシステムを簡素化し、また、あらかじめ工場で製造し、現地で組み立てるため、大型炉に比べ工期の短縮や建設コストの削減が見込める」。カナダのプロジェクトでは、2029年運転開始というスピード感で進んでいるという。
海外でプロジェクトが進む小型軽水炉だが、日本で導入するメリットはあるのだろうか。「大型炉か小型炉か、という話ではなく、多様なニーズに対応できる力を持っておくことが重要だと考えている。データセンター等の増加により需要が高まることが予想されており、第7次エネルギー基本計画で、廃炉が決定した原子力発電所のサイト内での建て替えが明記されたなか、廃炉途上の空いているスペースに小型軽水炉を置いて、高まる電力需要に速やかに対応していくことができる。大型炉と小型炉のラインアップを持つことが、多様なニーズに対応できる力につながる」。不躾な質問にも木藤さんは丁寧に答えてくれた。
BWRX-300 建屋断面イメージ図
核燃料サイクル確立に向けた
プルサーマルと高速炉
安全性·経済性を高めた新型炉開発が進むが、一方で核燃料サイクルの確立も重要なテーマだ。日立GEニュークリア·エナジーでは、プルサーマルの本格導入に力を注いでいる。使用済み燃料を再処理して、燃料として再利用できるプルトニウムを取り出し、これをウランと混ぜて加工したものをMOX燃料という。MOX燃料を原子力発電所で使うことで、資源の利用効率を高め、毒性の強い放射性廃棄物を減らす利用方法がプルサーマル。これだけでも使用済み燃料の削減に大きく貢献するが、プルサーマルを高度化、さらなる削減効果を目指し、研究開発を進めている。
今世紀の後半には高速炉の導入をめざしている。現在、米国では金属燃料高速炉「PRISM」の開発が進んでいる。PRISMは、事故時に電源および運転操作を必要とせず、長期間の炉心冷却を実現する安全性の高い高速炉であり、日立GEニュークリア·エナジーは国内導入を検討している。「高速炉サイクルにより、ウランなどの資源の利用効率を飛躍的に高め、原子力エネルギーを将来にわたって持続的に活用していくことが可能になる。電力会社はじめ、関係各所に説明する機会も増えてきているが、放射性廃棄物の減容化には欠かせない技術で期待が高まっていると感じる」と開発を担う近藤貴夫さんは話す。
核燃料サイクル
原子力技術の維持・発展へ
人を育てコミュニケーションを強化
期待高まる多様な技術開発を進めるのも、実現するのも人。日立GEニュークリア·エナジーでは発電所新設工事を通して人材育成をしていくとともに、実際の原子力発電所施設を模した予防保全センターを活用し技術伝承を行っている。
そして、原子力の維持には、立地地域の方々のご協力も不可欠だ。最後に立地地域への思いを聞いた。
佐賀県·唐津出身で小さいころから玄海原子力発電所に見学に行く機会が多かったという松浦さん。「原子力発電は、2050年カーボンニュートラル実現に向け不可欠な電源だが、ご協力いただいている立地地域の皆様の理解と協力があってこそ成り立っている。私共はより安全性の高い原子炉開発、そして社会の皆様に理解いただけるコミュニケーション活動に尽力していきたい」
「データセンターによる需要増など安定供給と経済性を両立させるエネルギーが求められるなか、原子力に期待する声は高まっていると感じる。日本の原子力技術を維持·発展させるには若い人たちの力が不可欠。原子力発電を知ってもらう機会を増やし、技術力を肌で感じてもらえる取り組みにも力を入れていきたい」という近藤さんの言葉を受けて、木藤さんは力を込める。「日立では、大間発電所に納める設備を保管している。見学してもらうと『こんなに大きいのに、とても精緻なつくりに驚く』と声をいただくことが多い。映像や写真ではわからないダイナミックな技術力を伝えていきたい」
日進月歩の原子力技術に期待が高まる。

松浦 正義まつうら まさよし
日立GEニュークリア・エナジー 主管技師長

木藤 和明きと かずあき
日立GEニュークリア・エナジー 原子力計画部

近藤 貴夫こんどう たかお
日立GEニュークリア・エナジー 原子力計画部